リュック・サックの歌 演奏中 Off 

清水脩 詩

 あれからもう一年経ちました。
あの日、庭の梅の花が咲いて、春を告げていました。
あと二日経てば、お前が山から帰ってくるはずなので、母さんは、お前の机の花びんに挿しておこうと、梅の一枝を折りとっていました。
お前の可愛がっていたコロ、お前に一番なついていたコロは、母さんの足もとでじゃれていました。
 その時です、忘れもしません。ほんとうにその時でした。
一通の電報が母さんを地獄の底へ突き落としてしまいました。
手にした梅の枝を取り落としたののも気付かなかったのです。
母さんの心の中のものを、何もかも一どきに変えてしまったのです。
 遭難、お前が山で遭難したのです。


 三月二日。十八時集合。
外の時は平気で遅れてくるヌーボー倉田も、山となると時間厳守。
先発隊十二名は三日前に出発しているので今は倉田と二人、いつもの事ながら二人とも重いリュックだ。

リュック・サック
リュック・サック
肩に食い込む重さでも
山の友だと思えば軽い
背中にずっしりかからばかかれ
踏みしめ登る急坂も
リュックがあれば気がはずむ

「お前のは重そうだな」
「うん、三十キロはたっぷり」
「忘れものはないだろうな」
「チョコレートならもっと持ちたいよ」


リュック・サック
リュック・サック
中味は何だときかれても
数え切れないこの重装備
背中にずっしりかからばかかれ
あの山この山 なつかしい
リュックにつめたい思い出よ

三月三日。快晴。桃の節句。ここ十日ばかり晴天つづきとのこと。
順子はおひな様を飾ってもらっている事だろう。
 十七時二十分、中房温泉着。